【特集】包装作家®️正林恵理子 |「愛情で地球を包む」エコ・ラッピング
身の回りにある素材にひと手間加えるだけで、贈ってももらっても嬉しいエコな包み方を提案する包装作家®️の正林恵理子さん。
地球温暖化や海洋プラスチックごみ問題など、過剰包装によって様々な環境問題が取り沙汰される昨今、エコ・ラッピングを生み出すアトリエを訪ね、包装作家®️として活動する中で感じる想いについてお伺いしました。
包装作家®️ 正林恵理子とは
どのような活動をされているのですか?
封筒に紙袋、紙コップなど、どこの家にもある身近な素材を使って、人にも環境にもお財布にも優しいエコなラッピングを作っています。
2009年に、初めて「エコ・ラッピング」の本を出した時に、包装作家®️という肩書きを自分でつけました。似たような肩書きでラッピングコーディネーターがあると思うんですが、私はラッピングコーディネーターの資格を持っていませんし、包材をたくさん利用して豪華に美しく包むラッピングというよりかは、どちらかというと私は、ひと手間、ひと工夫をしてシンプルなラッピングを作っていたのと、日本語が好きというのもあって、包装作家®️に決めました。
\身近な素材で新しい包み方のアイデア満載/
包装作家®️正林恵理子さん著 もっとエコ・ラッピング~思わず誰かにプレゼントしたくなる~ / Amazon】
最近はコロナの影響で控えているんですが、イベントに参加して対面でのラッピングのワークショップを行ったり、自宅で少人数のラッピング教室を行っていました。ここ数年行わせていただいているのは、PTA行事での学びの一環として、保護者の方々や、地域施設の事業で小中学生を対象にワークショップを開催しています。ラッピングを作る時に子供は斬新な発想で作品をつくってくれるので、私には気付けないことを、逆に教えてもらえる貴重な機会になっています。
去年、初めて高齢者の方にエコ・ラッピングを伝える機会をいただいたんですが、自分では「この年代の方々にも無理なくできるだろう」と思っていたことでも、高齢者の方にとっては複雑で難しいと感じる作業だと知り、今後に生かすための大きな学びがありました。「難しい~」と言いながらも、すごく楽しそうに目を輝かせている姿を見ると、やっぱり作るっていう作業は年代問わず、皆さん好きなんだろうなって毎回実感しています。
機会がないとなかなかお家ではしないと思うんですが、女性はゆっくり作る時間がないだけで、実は工作が好きな方が多いという印象があります。子供が参加するワークショップに、付き添いでやってきたお母さんの方が子供よりも興味を持たれることも多いですね。
身近なものでお洒落に包む「エコ・ラッピング」
エコ・ラッピングを始めたきっかけを教えてください。
お菓子作りを学ぶパリ留学を終え、日本に帰国したあと助産師として働きながら、お菓子作りを続けるために月に1度自宅でカフェを開くようになったんです。最初は友人を招いて趣味感覚で始めたんですが、だんだんとお客さんが来てくださるようになりました。
お客さんへのお土産に、自分で焼いたお菓子を包んでいたのですが、お菓子作りにかかる材料費や光熱費がかかる中で、ラッピングのコストを減らせないかなと思っていました。そんな時に、留学先のパリのマルシェで買い物していたときに見かけた、さりげないけどお洒落なラッピングのことを思い出して、身近にあるものを使ってお金をかけずに可愛く包むラッピングを考えるようになったんです。
正林さんが作ったラッピング。身の回りにあるものだけで作ったとは思えないほどお洒落で可愛い。
ある時友人が、知り合いの編集者さんに私が包んだ焼き菓子を差し入れしてくれたのですが、そのラッピングが編集者さんの目にとまったことをきっかけに、エコ・ラッピングの本を出版することになりました。はじめのうちはラッピングのレパートリーも少なかったのですが、暮らしの中で使えそうなものを探していくうちに、どんどんアイデアが広がっていき、包装作家®️としての活動を本格的に始めることになりました。
アイデアの源はパリのマルシェでの経験だったんですね。
そうですね。マルシェに行くと、店先に野菜が並べられていて、量り売りで欲しい分だけ買うので、圧倒的にプラスチックの包装が少ないなっていう印象はすごくありました。日本のスーパーとは景色がだいぶ違いますね。
チーズを買ったらささっと包んでくれたり、バゲットを買ったら持つ部分だけに紙を巻いて渡してくれたりとか、こういうのでもすごく可愛いんです。おおげさに包まなくても、身近にあるもので可愛らしさって出せるんじゃないかなって思っています。
フランスのマルシェの様子
余分な要素を削ぎ落としているのに可愛いっていうのは、包むのが上手というよりかは、むしろ感覚的に、野菜や果物が手にとりやすいかどうかを考えて包んでいて、向こうの人にとっては当たり前の習慣なんでしょうね。そういう文化、習慣の中で生活していた時に見たことや感じたこと、触れてきたことが今の自分の生活に影響を与えているなと思います。
他にはどんなところから、ラッピングのアイデアを得ていますか?
日本での買い物の中でもヒントをもらっています。今はいろんな包みがあるじゃないですか。デパ地下の和菓子屋さんや、可愛い雑貨屋さんで買い物した時の包み方や、結び方を参考にしたり、お友達から「素敵な包みを見つけたよ」って教えてもらったりしています。
最近では、身の回りの子育て世代の間でも興味を持ってくださっているのを感じます。年代が上の方でも、私のラッピングをとても喜んでくれるんです。
エコ・ラッピングを実際に受け取ると「自分で包むエコなラッピングの楽しさ」を感じてくださり、自分なりのエコ・ラッピングを実践するようになる方が確実に増えると実感します。デパートで包んでもらう豪華な感じとはまた違って、その方らしさがすごく出ているので、愛嬌たっぷりのラッピングはもらうと嬉しいですよね。
渡したいものや作ったものをもらうとき、そのまま渡されるよりは、なにかに包んで渡してくれた方が、私は愛情とやさしさを感じます。きっとその包みの中に相手を想う気持ちが入っているからだと思うんです。だから受け取るとその気持ちが伝わって、心が温かくなるんだと思います。
包装作家®️としての活動を通して、印象的な出来事を教えてください。
友人に頼まれて買ってきたものを、紙袋で作った箱に麻紐で結び、ラベルとベイリーフを付けて渡したことがあるんですけど、「包みがかわいくて、もったいなくて開けられない」って言ってもらえたことです。頼まれて買ってきたものなので、中身はわかっているのに、まだ中身を見ていない段階で、ラッピング自体に喜んでもらえたことが嬉しくて、とても印象に残っています。
過去に作ったエコ・ラッピング
どこのご家庭にもある、身近な素材で今日から始められるエコ・ラッピング。暮らしのなかで見かけるありふれた素材が、ちょっとひと手間加えるだけでイメージを変え、素敵なラッピングに早変わり。 読者の皆さんの参考になればと、これまでに制作されたラッピングをいくつかご紹介いただきました。
牛乳パックの底部分に紙袋の持ち手をつけてアレンジ。贈り物として、お花や小さめのお菓子などを入れても可愛い。
箱のふたの側面を2箇所切り開き、下の箱に取り付けてリメイク。持ち手と玉紐を作ればおしゃれなトランク風に。
段ボールをリユースしたファイルケース。収納する棚に合わせて、サイズも自分で調整可能。
持ち手のない紙袋の側面のマチを、外側に出して形を整えてポーチ型に。
チャック付き袋のチャックの部分をリユースし、口を閉じられるように。
正林さんの作業机。小物が多いと雑然としがちですが、とてもすっきり整理されています。
ラッピングのアレンジに使う小物類。タグやラベルなど、自分で作っているそうです。
包む文化と環境問題について
過剰包装について
過剰包装の問題ってみなさん感じているところだと思うんですが、ラッピングのゴミを減らすだけでも、かなりのゴミが減ると思うんです。環境問題に対してどうやったら具体的に取り組めるんだろうって考えたときに、なかなか動けない方もいると思うんですが、そんな方に向けて、身近なものでラッピングを作るエコ・ラッピングを広げていきたいなって思っています。
紙袋も、紙袋としての役目のまま終わらせるのではなくて、持ち手を外して分解したり、袋部分は箱にするとか、何回も使ってリユースできます。いま紙袋を捨てずに取っている方は多いですけど、結局最後捨ててしまう方が多いと思うんです。捨てる前に、こういう使い方があるよっていう選択肢を増やして伝えていきたいですね。使い倒してゴミになるんだったら一回一回でゴミになるよりも、かなりゴミの量を減らせると思います。
分解した紙袋の持ち手のストック。紙袋メーカー!?と見間違うほどの品揃え。
「愛情で地球を包む」包装作家®️としての想い
「包む」文化ってすごく素敵なことだし、1枚の紙でさっと包んであるだけで、とても愛情を感じるんです。「包む」という、優しい気持ちを届ける贈り物の文化の中に、エコ・ラッピングがこれから広まっていくといいなと思っています。愛情でまあるい地球をぜんぶ包めたら、心も豊かになるし、穏やかで尖ったところもなくて、包まれるとすごくホッとするじゃないですか。そういう世の中を目指したいですね。
読者の方へのメッセージ
エコ・ラッピングを伝えていくこと
子供たちにエコ・ラッピングを伝えていくことは、すごく大事だなって思っています。発想も豊かなので、包むことからいろんなことに発展していく気がしています。お子さんと一緒に、工作の感覚で楽しんで作ることができるラッピングがエコ・ラッピングなので、日々の暮らしの中で材料を見つけて、一緒に楽しいアイデアを形にして、それをまた友達に伝えて、いろいろ楽しんで欲しいなって思います。
編集後記
「ゴミ大国」日本。国連の報告書によると、国民1人あたりが1年で排出しているプラスチックごみの量はアメリカに次いで”世界ワースト2位”。その大きな原因の1つと言われているのが、「過剰包装」です。
お菓子が1つ1つ丁寧に個別包装されていたり、お店で小さな商品1つを購入するだけでレジ袋を付けてしまったりと、日本では「過剰包装」の文化が根強く残っています。
そんな中、「包む」文化を大切にしながらも、優しい気持ちを届ける贈り物の文化の中に、エコ・ラッピングを広めたいと言う正林さん。身の回りの素材をリユースすることで、人にも地球にも優しくなれるエコ・ラッピングは、過剰包装について考え直すきっかけになるのではないでしょうか。