大昭和紙工産業株式会社

事例紹介/お知らせ

【対談企画】「プラなし博士」に聞く。環境問題のホント。-第5回 プラから紙への代替②-

2020/04/06 紙で環境対策

現在、世界中でプラスチック製品が溢れ、海洋プラスチックごみや地球温暖化といった環境問題が、毎日メディアを賑わせています。これらの問題に対応する為、日本では2020年7月よりすべての小売店で、プラスチック製レジ袋の有料化が義務付けられます。人類に多大な恩恵をもたらしてきたプラスチックという素材は、今まさに岐路に立たされています。
紙製品を取り扱う我々大昭和紙工産業は、「紙化プロジェクト」と題して、プラスチック製品の紙代替を推進しています。今回は、海洋環境や海洋科学技術の調査・研究をおこなっている「国立研究開発法人海洋研究開発機構」の研究員・博士の中嶋亮太氏に、今叫ばれるプラスチック問題やその対策について詳しく伺い、大昭和紙工産業が進める紙化プロジェクトについて、ご意見を頂戴しました。
中嶋博士(以下:中嶋)と当社紙で環境対策室の田中による対談形式で、全5回に渡って環境問題のホントをお伝えしていきます。

第5回 「プラスチックから紙への代替②」

前回は2020年7月から始まるレジ袋の有料化の実態と、紙製品によるプラスチック製品の代替の展望についてディスカッションしました。
最終回の今回は、具体的にどのようなものが紙に代替できるか、意見を交わしていきたいと思います。

身近なプラスチックを紙に

【田中】

最近、紙製ストローに代表されるように、いろいろなプラスチック製品が紙などの代替素材に置き換わっていますよね。

【中嶋】

そうですね。私も紙製品による代替はこの問題の対応策の一つとして期待できると考えています。
ただ、前回申し上げた通り、まず使い捨てのプラスチック製品の使用を減らすのが大前提で、減らしきれない部分を紙などの代替素材で置き換えていくことが重要です。またそこにビジネスチャンスがあるのではと思います。

【田中】

その通りですね。
我々も、プラスチック製レジ袋を紙袋に置き換える働きかけを進めていますが、今使われているレジ袋のすべてが置き換わると、国内の紙袋メーカーの生産キャパシティを超えてしまうでしょう。基本的には使用自体を減らしていくことが望ましいと私も思います。でも、例えばコンビニに提案するなら、お弁当用の袋のようにマチがしっかりとあるほうが良いものなど、必要なところに紙袋を使うのがいいと考えています。
中嶋さんはこれが紙に置き換わるといいと思われるものはありますか?

【中嶋】

納豆のパックが紙にできたらいいと思っています。
いまは発泡スチロールの容器に入っているのが主流ですよね。発酵の際に保温効果があるため便利だとは思うのですが、紙でも代用はできるのではないかなと思います。

 

 

【田中】

確かに納豆や豆腐の容器を紙製に変えたいとは考えていました。高級感を出した納豆や豆腐のパッケージは、上のフィルムだけ紙の質感のあるものを使っていることが多いですよね。これがすべて紙製になればさらに高級感も出ていいと思います。ただ汁気があるのが大きな問題ですね。

【中嶋】

紙代替をするにあたって、やはりラミネートは必要になってくると思います。今後生分解性プラスチックの開発が進み、100%生分解性プラスチックでラミネートができるようになったり、植物性のワックスやパラフィン※1など環境にやさしいものを使うと良いのではないでしょうか。

【田中】

そうですね。プラスチックのいい部分は取り入れながら紙代替を進めていくのがいいと思います。紙に変えると中身が見えなくなることも議論される部分ですね。

【中嶋】

発泡スチロールの容器の場合でも中身は見えないですし、他の商品でも必ずしも中身が見えないといけないわけではないと思います。どうしても中身を見せたいものに関しては、最近研究されているCNF《セルロースナノファイバー》※2が使えるようになるといいですね。おもにパルプから作られる植物由来のバイオマス素材で、透明性やバリア性があるとされています。(当社CNFに関するお問い合せはこちら

【田中】

CNFについては当社でも開発に取り組んでいます。ティッシュの染色技術を活かしたカラーCNFを開発していますが、今はなかなか使い道が定まっていない状況です。コストや耐水性が課題となっていますね。

 

 

【中嶋】

CNFを疎水化※3する方法もありますが、依然コストの問題は残りますね。今後の技術革新による低コスト化を期待したいです。
包装材以外でも、使い捨てのスプーンやフォークも代替しようとしている企業は多いですね。展示会等でもよく見るようになりました。

【田中】

段階的に木や紙で作られているようですね。湾曲を再現するのが難しいですが、現在は折り目をつけることで立体にしているようです。

【中嶋】

プラスチック製の使い捨てカトラリーは使用後には油で汚れていますよね。こういった汚れたプラごみは洗浄しないとリサイクルができません。洗浄にはコストがかかり、多くはリサイクルされずに焼却されます。このような用途のものは紙や木などのバイオマス系に変えていくのが最善だと思います。

【田中】

農業の分野にも紙製品を取り入れられると思うのですが、いかがでしょうか。

【中嶋】

農業では多くのプラスチックを使用します。種や苗が入るポットもプランターも温室もプラスチックですから、農業用品の紙化はかなりのビッグマーケットだと思います。

【田中】

苗を植える畝にかける黒いフィルムも生育が終わったら土と一緒に耕せるようにしたらどうかと考えています。野菜を育てるときは形を保って、収穫後耕すときに同時に粉砕するなら紙のほうがいいのではと。

【中嶋】

技術的な壁はあると思いますが、可能になればとても良いものができると思います。
紙はまだまだ大きなポテンシャルを持っていると感じています。CNFのような新しい素材も研究されていますし、塗工剤や添加剤を使えばいろいろな機能を付けることも可能です。様々な形状に加工したり、袋の形や利用方法にも進化の可能性はまだまだあるでしょう。

 

環境に配慮する文化を根付かせたい

【田中】

私たちは、便利さを追求して使い捨ての製品をどんどん使うようになった文化そのものを変えていきたいと考えています。いい紙袋は取っておくことが多いですよね。古くから日本には紙袋は高級感があるという意識があり、取っておいて再利用する文化が根付いているはずです。この文化をさらに追及して、紙製品はかっこいい、ひいては、環境に配慮したものを選ぶのがかっこいいという文化を根付かせるべく取り組んでいきます。
これまで世界を取り巻く環境問題や対応策について様々なお話を伺ってきました。
最後に、中嶋さんが我々メーカーに期待することをお聞かせください。

【中嶋】

とにかく不必要な使い捨てプラスチックからの脱却を広く浸透させてほしいと思います。これからそれらの製品はバイオマス系に置き換わっていきます。ヨーロッパではすでにプラスチックからバイオマス素材への切り替えが進んでいますが、日本でもそれに負けないようにどんどんバイオマス化を進めてほしいです。日本はもともと紙産業に関して強かったはずです。この強みを活かして、日本独自の世界に誇る紙のプロダクツを生み出していただきたいと思います。

 

 

【田中】

ありがとうございます。
紙製品メーカーとしてこれまで培ってきたノウハウを活かしながら、今までの製品分野にとらわれない環境対策製品を生み出していきたいと思います。
また、本企画のような環境問題の訴求、消費者の皆様に誤解を与えない正しい情報発信を今後も積極的におこなってまいります。
全5回に渡りインタビューにお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

【中嶋】

ありがとうございました。


  • ※1 植物性のワックス(蝋、ろう)には大豆由来や米油由来などがある。パラフィンは石油由来の蝋(ろう)の一種。水をはじく効果があり、紙に塗工することで撥水性を持たせることができる。生分解することが報告されている。
  • ※2 紙の原料であるパルプをナノサイズ(1 mmの100万分の1~1万分の1)までほぐした繊維。軽くて強い性質があり、カーボンファイバーのような補強繊維や、透明性を活かしたバイオマスフィルムとしての利用が期待されている。
  • ※3 水になじまない性質を持たせること。耐水性を付与し、通常の紙のように水で解れることを防止できる。

中嶋 亮太

国立研究機関法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC) 研究員・博士(工学)
2009年創価大学大学院を卒業後、同大学助教、JAMSTECポストドクトラル研究員、米国スクリップス海洋研究所研究員を歴任。2018年より、JAMSTECに新設された海洋プラスチック動態研究グループに在籍し、海洋プラスチック汚染について調査研究を進めている。プラスチックをなるべく使わない生活を提案する人気ウェブサイト「プラなし生活」https://lessplasticlife.com/の運営も務める。
著書『海洋プラスチック汚染 ―「プラなし博士、ごみを語る」』(株式会社岩波書店)の中で、近年深刻な汚染問題が浮き彫りになってきた海洋プラスチックごみについて、現状や研究状況を分かりやすく伝え、プラスチックごみの発生を最小限にする社会を提唱している。

【対談企画】「プラなし博士」に聞く。環境問題のホント。(全5回)