大昭和紙工産業株式会社

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【対談企画】「プラなし博士」に聞く。環境問題のホント。-第1回 プラスチックと海洋汚染-

2020/01/28 紙で環境対策

現在、世界中でプラスチック製品が溢れ、海洋プラスチックごみや地球温暖化といった環境問題が、毎日メディアを賑わせています。これらの問題に対応する為、日本では2020年7月よりすべての小売店で、プラスチック製レジ袋の有料化が義務付けられます。人類に多大な恩恵をもたらしてきたプラスチックという素材は、今まさに岐路に立たされています。
紙製品を取り扱う我々大昭和紙工産業は、「紙化プロジェクト」と題して、プラスチック製品の紙代替を推進しています。今回は、海洋環境や海洋科学技術の調査・研究をおこなっている「国立研究開発法人海洋研究開発機構」の研究員・博士の中嶋亮太氏に、今叫ばれるプラスチック問題やその対策について詳しく伺い、大昭和紙工産業が進める紙化プロジェクトについて、ご意見を頂戴しました。
中嶋博士(以下:中嶋)と当社紙で環境対策室の田中による対談形式で、全5回に渡って環境問題のホントをお伝えしていきます。

第1回 「プラスチックと海洋汚染」

1回目の今回は、海に住む生物たちを苦しめている海洋プラスチックごみについて伺いました。プラスチックの排出量や廃プラスチックが環境におよぼす悪影響と、私たちが取り組まなければならないことを明らかにしていきます。

プラスチックはどれだけ海に流れている?

【田中】

マイクロプラスチックとなるプラスチックが海洋生物や、人体に影響をおよぼすとされています。中嶋さんの見解を改めてお聞かせください。

【中嶋】

プラスチックの生産量はどんどん増えていて、現在年間4億トンを超えています。このままでは2050年までに11億トンを超えるだろうと言われています。作られたプラスチックの半分は使い捨てプラスチックで、どんどん捨てられることになります。これほど管理ができていると言われている日本でさえも海洋に流出しています。これがマイクロプラスチックになり我々人間に帰ってくることが考えられる為、非常に深刻な問題となっています。
今後確実にプラスチックの生産量は増えます。したがってマイクロプラも増え、生態系への影響も今以上に拡大していく可能性が高いです。また、すでに海洋に流出したプラスチックの回収は、ほぼ不可能とされています。流出したプラスチックのほとんどは海底に沈んでいると考えられており、それを回収に向かうのは難しい為です。つまり解決策としては、今から海に入ってしまうプラスチックの量を減らすしかないのです。

 

プラスチックリサイクルのホント

【田中】

海洋プラスチックごみの回収はほぼ不可能なんですね…。ではゴミになるプラスチックの量を減らすとすると、やはりリサイクルでしょうか?日本ではサーマルリサイクルを取り入れている為、80%を超えるかなり高いリサイクル率になっていますよね。

【中嶋】

サーマルリサイクルは世界ではリサイクルとして認められておりません。環境省でも現在は「熱回収」という言葉で表現しています。熱回収を抜いてしまうと日本のプラスチック再利用率は30%に届きません。世界基準からすると、本当の日本のリサイクル率はかなり低いんです。

【田中】

そうなんですね。もっとリサイクル率を上げれば海洋プラスチックごみの削減に繋がるでしょうか?

【中嶋】

実はリサイクルの半分以上は海外で処理されており、国内での純粋なリサイクル率は1割程度です。プラスチックのリサイクルには、再生利用(裁断して溶かして再び使う)にあたるマテリアルリサイクルと、化学原料に作りかえるケミカルリサイクルがありますが、8割以上はマテリアルリサイクルです。しかし、プラスチックはリサイクルの度に劣化していくので、ペットボトル等をプラスチック繊維としてつくりかえる、ダウンサイクルが殆どです。これらは衣類等に利用された後は、ほぼリサイクルされず捨てられます。
本当にリサイクルをしたいのであれば、プラスチックを低分子化して、新たにプラスチックとしてリメイクするケミカルリサイクルに力を入れる必要があります。ですがこれには莫大な費用が掛かり現実的ではありません。コストの課題が解決すれば、永続的な素材になると思われますが。今のところ難しいのが現実です。
それに現在は、海外からプラスチックごみの受け入れ拒否が相次いでおり、自国内に処理し切れないプラスチックごみが溜まっているのが現状です。今はリサイクルに解決方法を求めず、プラスチックの使用量を減らすのが先決だと思います。

 

少し不便でも環境に良い生活を

【田中】

プラスチックの使用量を減らす、確かに仰る通りですね。
紙製品メーカーの立場から、私たちはプラスチックを紙で代替するのがいいと考えています。
【中嶋】

私も紙製品による代替はとてもいいと思います。プラスチックはとても便利なので、過去に飲み物の瓶や缶、包み紙等、様々な物がプラスチックに置き換わりました。ですが、今この便利さを追求し続けた負債が回ってきています。これからは多少不便であっても、環境に良いものを求める社会になっていくと思います。

【田中】

プラスチックを紙に代替することで、環境に優しくなることは確かですが、紙製品を大量に使うことに対する反対意見があることもまた確かですよね。

【中嶋】

紙製品が増えることで、森林の伐採が相当に増えるのであればバッシングが来るでしょう。森林が再生する速度も考え、持続可能であるということを明確にできれば良いと思います。リサイクル等でコスト的にもメリットがあることもアピールしたいですね。

【田中】

そうですね。

紙製品を使うことで植樹、間伐、収穫といった、森林のサイクルを健全に回すことができるという事実を積極的に発信し、紙製品が環境に与えるメリットを消費者の皆様に伝えていきたいと思います。

紙製品と森林サイクルの関係については違う回でディスカッションしていきたいと思います。

次回は、近年環境対策素材として注目されている、バイオマスプラスチックについてお話を伺います。次回も宜しくお願いいたします。
【中嶋】

宜しくお願いします。


中嶋 亮太

国立研究機関法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC) 研究員・博士(工学)
2009年創価大学大学院を卒業後、同大学助教、JAMSTECポストドクトラル研究員、米国スクリップス海洋研究所研究員を歴任。2018年より、JAMSTECに新設された海洋プラスチック動態研究グループに在籍し、海洋プラスチック汚染について調査研究を進めている。プラスチックをなるべく使わない生活を提案する人気ウェブサイト「プラなし生活」https://lessplasticlife.com/の運営も務める。
著書『海洋プラスチック汚染 ―「プラなし博士、ごみを語る」』(株式会社岩波書店)の中で、近年深刻な汚染問題が浮き彫りになってきた海洋プラスチックごみについて、現状や研究状況を分かりやすく伝え、プラスチックごみの発生を最小限にする社会を提唱している。

【対談企画】「プラなし博士」に聞く。環境問題のホント。(全5回)